消費者契約の勧誘
消費者契約法は、消費者と事業者との間の契約に関する包括的なルールや消費者が安全・安心に取引できる環境を整備するための措置を定めています。第4条第2項の不利益事実の不告知は「事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し」て行われることが要件です。不利益事実不告知は、消費者契約法の取消事由の一つであり、事業者と消費者の間にある情報格差を是正するための重要な規定です
東急不動産だまし売り裁判ではパンフレットやチラシといった勧誘素材が重要な役割を果たしました。直接の対面説明だけでなく、視覚に訴えるこれらの資料全体が、消費者との契約締結を促す勧誘になります。
「「パンフレット・図面集・チラシ」は直接対面してなされる説明を補助するために配布されたものであるところ、建築前のマンション販売契約という特性上、視覚に訴える説明資料としてのそれらの配布は、契約締結を促すためのまさしく勧誘素材として重要な役割を果たすものであったと言えよう」(牧佐智代「事業者による不特定多数の消費者に向けられた「働きかけ」と消費者契約法上の「勧誘」概念」法政理論第51巻第3・4号、2019年、118頁)
この論文では東急不動産だまし売り裁判を以下のように説明します(116頁)。
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東京地判平成 18年 8月 30日D1-Law.com判例体系 ID28264331
持ち家を購入すべくマンション物件を物色していたXがマンションギャラリーを訪問した際に、売主Yが、眺望・採光・通風の良さを強調したパンフレット・図面集・チラシを配布して勧誘をなした一方で隣地の建て替え計画があることを知りながら告げなかったことが不利益事実不告知に該たるとして売買契約の取消が認められた事案である。
裁判所は、Yがマンションの窓から公園が臨める旨を告げて眺望の良さを強調したほか、Xに配布したパンフレット・図面集・チラシにおいても眺望・採光・通風の良さが謳われていること(「緑道に隣接するため眺望・採光が良好!」等)をもって、利益告知に該たるとした。
なお、契約締結の際に重要事項説明書に記載された一般的な説明はしたものの建て替え計画があることについて説明をしなかった点が不利益事実不告知に該たるとしたが、前提となる事実認定において、配布された現地案内図に隣地建物は「ソーコ」と記載されており同建物についてXが尋ねたところ、Yは「資材置き場です。」と答え隣地建物についての正確な説明がなされなかったことが併せて認定されている。
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東急不動産だまし売り裁判では、東急不動産(東急リバブル)が不利益な事実(隣地の建て替え計画)を知りながら、利益となる事実(眺望・採光の良さ)のみを強調し、不利益な事実を告げなかったことが問題となりました。
東急不動産だまし売り裁判の意義は、事業者に対して、自社に有利な情報だけでなく、消費者の契約判断に影響を与えうる不利な情報についても、誠実に告知する責任があることを明確にした点にあります。消費者契約法は、まさにこのような事業者の情報提供義務を強化することで、消費者保護を図ることを目的としています。東急不動産だまし売り裁判は、消費者契約法上の「勧誘」概念の解釈を深めるとともに、事業者と消費者の間の情報非対称性という根源的な問題に光を当てた事例です。


